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『しつらえの設計士』

  • アラキ
  • 2015年7月27日
  • 読了時間: 9分

奥村設計室/奥村久美子さん

HRの建築家紹介vol.2は、奥村設計室の奥村久美子さん。

前回紹介した武藤さんからの紹介で取材をさせていただくことに。なんでも、奥村さんは武藤さんと一緒に町家関係のお仕事をすることも多いとか。

そして、金沢工業大学のOGであり、私たち荒木と小池の先輩にあたるのです。

さっそく、同じ大学を卒業された先輩がどのように活躍されているか、お話を伺うべく、事務所のある東山へ!

しかし、途中、突然のにわか雨に会い、自転車で向かっていた私たちはずぶ濡れに…

なんとかして、教えてもらった事務所の住所にたどり着くと、そこには大変立派な町家がありました。

本当にここが事務所なのか少し戸惑っていると、中から奥村さんと女性のスタッフが顔を出し、私たちを招いてくれました。そして、雨の中来る私たちを心配して、タオルを用意し、暖かく出迎えてくれました。 奥村さんはこの町家の2階を事務所として仕事をしています。奥村さんとともに2階へ上がると、そこにはお座敷がありました。なんとも、事務所らしくない雰囲気であるため、奥村さんに聞いてみるとここは奥村さんの実家だとか。先ほどの女性もお母さんだそうです。このお座敷、いつもは応接室として使っていて、お客さんの子どもが部屋に置いてあるぬり絵や絵本を読みながら、ごろごろしてしまうことも多いとか。確かに居心地のよい空間でした。

住宅や店舗の新築だけでなく、町家の改修やNPO金澤町家研究会*幹事として、町家に多く携わっている奥村さん。実家が町家(しかも築70年)であり、ひがし茶屋街がすぐそばにあるということもあり、もともと町家や古いものは好きだそうです。しかし、以前所員として働いていた設計事務所では、町家はおろか木造の建築もほとんど設計する機会はなかったようです。そんな奥村さんが独立後、多くの町家のお仕事をさせてもらえるようになったのは、一つのプロジェクトとの出会いがあったからだとか。

*金澤町家の継承・活用に向け、町家居住者や町家住まいに関心のある方々に向け、町家の修復等に関する研修事業、町家を利用した交流事業、情報発信事業などを行っている。金沢市における風格と魅力ある街並みの形成の促進及び市民主体のまちづくりの推進を目的に、平成20年2月に設立された。…NPO法人金澤町家研究会ウェブサイトより

■古を大切に 〜髙木糀商店の改修〜

髙木糀商店の外観

奥「独立後に一番最初に受けた大きな仕事が、髙木糀商店さんの改修ですね。この事務所のそばにある縄のれんが掛かっているお店です。」

荒「ここに来る途中見かけました。外が雨でじっくり見れませんでしたが…笑」

奥「これは江戸期の建築物なんですけど、職人大学の職人さんたちと一緒に再生工事をさせていただきました。これはかなり時間もかかって最初はこの時点で木造のこととか古い伝統工法のこととか熟知していたわけじゃなかったので、職人の方々の協力のもと工事を進めていきました。」

荒「一からの勉強だと、とても大変ではありませんでしたか?」

奥「凄い大変だったんですけど、得るものも大きくて、昔ながらの木の使い方とか左官のこととか、この糀屋さんって言うのは目に見えない糀菌を扱っているので、工事をしたからといって、その食品の味が、発酵食品の味が変わるわけにはいかないんです。だから、化学物質的なものだとか工業製品はできるだけ避けようと決めました。左官もここにある土をもういっかい練り上げて、塗りかえるとか、塗装も天井板に溜まっていた煤*をこそぎ落として、それを塗料のベースにして柿渋を合わせて塗装したりしていました。」

*髙木糀商店では長年、和釜という大きな釜を用いて、米や大豆を炊いていた。その際に薪を焚くので、天井裏に煤(松煤、昔から黒の塗装材として使われてきた。)が溜まるのである。

荒「先人の知恵ですね。その徹底振りが凄いです。」

奥「再利用した材料の中にも菌が結局いるわけです。なんかそういう工夫を徹底的にできる限りやりました。設計士というよりもなんとなく一職人的に普通に釘袋を提げて毎日居る、そして原寸図を現場で書くみたいな、ことをやっていました。そういうやりかたが良いか悪いかは別として、そういうやりかたを髙木糀商店さんの時はしました。」

髙木糀商店の内観 入ると味噌の香りが広がる

荒「良いと思います!実際にこれがきっかけで、改修のお仕事も増えたんですね?」

奥「そうですね。私の家も古いし、古いものはもともと好きだったんですけど、この仕事をやったことによって、他に仕事がやっぱりきたんです。古い仕事、改修の仕事とか、出来上がったものをご覧になった方がいて、うまくそれが順番に仕事に繋がってくれています。」

そんな奥村さんに町家の魅力を伺ってみました。

■自然素材の構成美、暮らしの中でのしつらえ

奥「外壁材に、サイディングとか板金とかを一般的に使いますけど、経年変化を経て、美しくなっていくかというと決して美しくなっていません。どこにでもある木という材料でこの地域だからこそ、生まれた建築が金澤町家なんです。それはやっぱり考えられた結果、 今も残っているとも思うんですよね。」

荒「確かに、金沢には多くの町家が残っていますね。」

奥「そうですね。残っているのはいろんな事情があって残っているのもあるけど、みなさん愛着があって、美しいと思っているのがあるから残っているのかな、と私は思っているんです。実際古い材料とか、壁とかきれいだと思うんですよね。やっぱそういう古い材料も、町家の中ではしっかりポイントとして美しく輝いているんですよね。そういう自然素材のものの構成美がきれいなんじゃないかなとか思っています。」

荒「確かに、自然のものには人間がつくり出したものにはない魅力を持っていることもありますよね。」

奥「あとは、暮らしの中でしつらえるという考え方が町家にあるからですね。ただ部屋があって存在して、お客さんを招くだけじゃなくて、お軸が掛かっている、お花がいけてある、お庭がちゃんと整えてある、お客さんをお招きするときに、何か器があって、飲み物を出すとかそういうことが全体として、日本の美の中で美しいことなんじゃないかなと私は思っているんです。」

荒「奥村さんの事務所にもたくさんの花がいけられていますね。」

奥「そうなんです。自分でいけました。特にお花をいけることが個人的に凄く好きで、お手伝いもさせていただいているんです。和の空間でいけるときは、日本に根付いている花だからこそ、切っていけてもさまになるんです。」

ここで、いけ花の話を掘り下げると共に、詳しく奥村さんの趣味などを聞いてみました。

■奥村さんの趣味

奥「お花はずっとしてますね、ちっちゃい時から。今は東京に1ヵ月半ごとに習いに、講義にいっているんです。」

荒「事務所内のお花も自分でいけているそうですが、何かテーマみたいなものはあるんですか?」

奥「今、暑い時期だから緑の方がすずしげかなっていうのと、あんまりお花をいっぱいいけるんじゃなくて、ちょっと、白い花があると、すがすがしい感じになるかな、と。」

荒「蒸し暑いこの季節にはぴったりですね。お仕事をする上でも、お花をいけたりする事もあるんですか?」

奥「はい、自分で設計した店の花はいけていますね。そういうしつらえのことも含めて、ご相談も受けますよ。例えば、掛ける書とかお軸とか、器とか、どんなディスプレイにするかとか。写真が好きなかただったら、写真の額装のやり方だとか。金沢のものの器を使って料理を提供されたいって時だったら、ガラス作家さんはどんな人が良いかだったりだとか、陶器だったらどんなかたが良いかとか。他にもオリジナルなものをつくるのか、つくらないのかとか、コースターとか、ロゴとか。そういうこと全般に凄く好きなので、設計だけじゃなくて、お店づくりに一緒に関わらせてもらうっていうことが多いんですよ。」

旬肴・旬菜・宵酒 八十八 共同設計:林建築設計工房

いけ花や書が八十八の雰囲気を引き立てている

荒「全部、趣味などはお仕事に繋がってるんですか?」

奥「建築の方、全員そうだと思います。他にも建築だけじゃなくて、季節の俳句の季語とか書とか、万葉集もそうだし、古典全般、古今和歌集とか全部必要な知識だと思います。例えば、お店に書が掛けてあって、この言葉って何ですかって聞いて、オーナーさんが説明してくれたら、会話が繋がりますよね。お店の中で、そういうアイテムって必要かなと思います。」

荒「建築という骨格だけで、お店の雰囲気をつくるわけではないんですね。」

奥「オーナーさんでもそういうお店の雰囲気づくりをできるかたもいるけど、やっぱりみなさんそこまでできなかったり、わたしたちがある程度加わると、お店が立ち上がりやすくてお店の宣伝にもなるかと思います。どれだけお店を立ち上げるときに周りの人を巻き込むかが、お店の立ち上げの一つのポイントかなと思います。例えば、作家さんのお皿を買ったりすると、そこのお皿を使っているから、お友達とご一緒に足を運んで下さるとか、そしたら、器つながりでお客様がまたお越し下さるとか。そういうところも実際巻き込んで、口コミでどれだけ知っていただけるかということもあるかなと思います。良いお客様がつけば、良いお客様はまた良いお客様をお連れして下さる。ま、おいしくないとだめだけど。(笑)」

話を聞く中で、奥村さんが空間の中にあるもの一つ一つを「しつらえ」として大切に設計しているということが伝わりました。

最後に奥村さんの建築家としてのこれからの目標を聞いてみました。

■人との繋がりをつくる

奥「依頼があった仕事を黙々としていきたい。」

荒「え、それだけですか?」

しかし、この答えの意味はとても奥村さんらしいものでした。

奥「こんなデザインでやっていきたい、という考え方は私の中にはなくてそれぞれのお客さんの求めている回答を、一つ一つ拾い上げながら、丁寧にやっていく、それだけだと思っているんです。黙々と生きている間に一つでもお客さんの幸せをかなえることができるのだから、そういうことに関われる時間を送っていきたいです。」

淡玄亭(上;改修前 下:改修後) 共同設計:林建築設計工房

8坪という小さな空間をオーナー家族の生活スタイルに合わせ改修した

この答えを聞いて、奥村さんがどれだけお客さんを大切にしているかがわかりました。奥村さんはこれからも、自分の建築を通して周りの人と繋がっていきたいそうです。

建築家と一般の人を繋げたい想いで立ち上げたこのHRですが、早速それを実践している人に会うことができたようです。

奥村設計室 〒920-0831 石川県金沢市東山1-8-8 TEL: 076-251-4525 E-mail: okumurasekkei@dream.com 共同設計:林建築設計工房

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