top of page

『あきらめないことが次につながる』

  • コイケ
  • 2016年5月13日
  • 読了時間: 7分

吉村寿博建築設計事務所/吉村寿博さん               

建築家紹介vol.3は、吉村寿博建築設計事務所の吉村寿博さんです。

吉村さんは、HRメンバー小池&荒木の先生であり(金沢工業大学の非常勤講師)、私たちは吉村さんの主宰する団体CAAKのにも所属していることもあって以前からお世話になっています。

仕事の内容や思いについて改めてお聞きしたいと思い、今回HR建築家紹介としてインタビューさせていただくことにしました。

吉村さんの事務所、吉村寿博建築設計事務所は寺町にあります。なんと、建築家紹介Vol.1に紹介させていただいたむとう設計の斜め向かいなのです。

吉村寿博建築設計事務所は、この町家の一室。

一階は、広い土間が広がり、建具で仕切れる和室2部屋が続きます。

この空間は、吉村さんをはじめとする仲間たちが立ち上げた“CAAK”(Center for Art & Architecture, Kanazawa)という、団体が主に使っています。

金沢の若手建築・美術関係者によって結成されたグループで、クリエーターinレジデンス、レクチャー&パーティ、ワークショップ、展覧会などを行っている団体です。

「いつでもすぐにイベントが開催できるように」とこの町家をおさえたそうです。イベント参加費の他に、町家管理人として一人、事務所として二人が家賃を払うことでこの場所を維持しています。

■金沢の変化を見ていきたい

まず、小池も所属しているCAAKの成り立ちについて教えてもらいました。

CAAKは、21世紀美術館が行った美術展をきっかけに生まれたそうです。21世紀美術館は金沢の人なら知らない人はいないでしょう。世界的に有名な建築ユニット“SANAA”の設計です。当時SANAAに勤めていた吉村さんは、プロジェクトリーダーとして21世紀美術館の設計に携わっていました。

金沢の活性化に大きく貢献している21世紀美術館。この施設がどのようになって欲しいか聞いてみました。

「それは、使い続けてもらうことかな」

「なるべく多くの人が利用してくれるっていうか、僕は21世紀美術館の仕事をして、公共建築というのは多くの人に使ってもらえる建物じゃなきゃいけないっていうのをすごく強く感じた。

町の人の税金で建てるわけだから、市民に還元するってわけじゃないけど、観光客よりも、市民が積極的に使ってほしい。使える建物になってほしい。楽しめる建物になってほしい。」

“まるびぃ”の愛称で親しまれている21世紀美術館は、吉村さんの想いに応えるように、今日も市民に親しまれています。

「21世紀美術館がどう使われていくかみてみたい。」

吉村さんは、この美術館プロジェクトの後に金沢に住むことに決めました。

「あとは、単純に金沢の町が気に入ったからかな。」

そう語りながら吉村さんは笑っていました。

■カルチャーショック

ここで、吉村さんの生い立ちについて聞いてみましょう。

吉村さんは鳥取県の工務店の長男として生まれました。建築の道に進んだのはなんとなく跡を継がなきゃいけない気がしたからだそうです。

小池「国立米子工業高等専門学校から、横浜国立大学へ編入したわけですが、何か大きく変わったことはあったのですか?」

「カルチャーショックだった。米子高専と横浜国大は全然違った。」

そう話す吉村さん。

というのも、吉村さんが通っていた頃の高専の教育は、建築は技術重視だったそう。構造的に成り立っているかどうか。そういうことが評価されていました。

しかし、横浜国立大学では、自由奔放な建築が出てきます。

「展示されている優秀作品に自由曲線を使った奔放な形の課題作品があって、これはとんでもないところに来てしまったぞと思った。」

構造的にどうか。そういった建築的土台を固めてから、デザインの渦に飛び込むこととなった吉村さん。

SANAAの妹島さん、西沢さんとは、大学院生の時に開催されたワークショップで出会ったそうです。SANAAの二人の建築に対する姿勢に惚れた吉村さんは、バイトを経てSANAAに勤務することになります。

■SANAAで培ったもの

SANAAでの仕事で培ったもの。小池が前々から気になっていることを聞いてみました。

「一番実感したのは“あきらめないこと”の大事さ、かな」

「こんな建築にしたいと図面にするけど、工事が始まってから、これは技術的に難しい、と言われることも結構あって。でも『こんな風にはできません』って言われて『ああ、そうですか、ダメですね』って言ったら終わりなんだよね。妹島さんも西沢さんも『現場に出来ませんと言われました』と伝えても、許してくれる人じゃないから。笑」

「担当者が、これもうできないと思ったらそこで終わりっていうのがすごくよくわかった。不可能と言われても、何かしら解決策があるんだよね。相手にごねるのではなくて、どうすれば実現できるかもう一度別の方面からあたってみるとか、やり方を変えてみるとか…そこであきらめなかったから実現できたことって、プロジェクト毎に必ず一つはあって…」SANAAでは、あきらめずに解決方法を模索する。粘って考え続ければなんとかなるということを実感したそうです。

SANAAの代表のお二人。左から西沢立衛氏・妹島和世氏。

出典:http://www.kanazawa21.jp

■「はじめて」を楽しむ

小池「吉村さんは趣味とかお持ちなんですか?」

「趣味ってないんだよね・・・」

小池「え・・!」

「趣味ってのはどんなに忙しくても時間を抽出してやるものらしいんだよね。それを趣味と考えるなら、そこまでしてやりたいことってないかもしれないって思って。」

「好きなことは、予定を決め決めで行動しないこと。例えば、あまり考えないで路地に入ってみるとか。そして、何か新しいことに出逢うこととかっていうのは好き。」

その時に感じた方向に進む。

吉村さんの話を聞いていると、そのことが生き方で一貫していることに驚きます。

そしてまた気になることを吉村さんに聞いてみた。

小池「学生だった頃の好きだった建築家はいますか?」

「高専の4年の時、授業で安藤さんが模型を潰したって話を聞いてから安藤忠雄さんに興味を持って…」

吉村さんはその後、安藤忠雄さんの事務所にバイトに行ったそうです。思い立ったら、すぐに行動に移す。分かっていても、なかなかできることではないでしょう。

「今考えると無鉄砲だったけれど、いろいろ行動に移せたことが、結果につながってるというか、いい方向に全部転がっていった感じがする。」

これからも、その時感じた方に進んでいきたいと話す吉村さんなのでした。

■「家を作るのにどれくらいかかると思う?」

「お客さんがどう思っているのかっていうのを、なるべく正確に理解したいと思うので、それに時間をかける。」

吉村さんは、住宅を設計するうえで、このようなことを大切にしているといいます。

吉村さんは、依頼を受けると最初に「最低1年はかかります」と言うそうです。基本設計の案がまとまるまでの半分くらいの時間はというと、互いを知る時間に使うそうです。

「対話を続けることで、この人はこういう風に考えるんだってわかってくるじゃない。そして、僕が相手を分かるだけじゃなくて、相手が僕の考えを分かるようになる。」

対話を続けないと分からないことがある。慣れてこないと話せないことがある。

そういうすり合わせの時間が何より大切だと話していただきました。

お客さんの考えが分かってから、その都度、自分が何を提案できるのかを考えるそうです。そうすることで、お客さんの想像どおりのものを提案できるんだな。と思ったら、そうではないよう。

「お客さんが思いつくようなことを提案してもプロとは言えないと思っていて、お客さんが思いつかないような提案をして、それがそのひとにとって良かった、ってなるようにいろいろ考えてる。」

吉村さんのところに来る依頼は、色々な段階があります。新築に改修、物件探しに土地探しというのも。

土地探しに関しては、普段から不動産と協力していい土地を捜しているのだとか。自分でいい土地を見つけたら、直接そこのオーナーさんに掛け合うこともあるそうです。

「なかなか見つからないけどね。」

そう苦笑しながら話す吉村さんに、お客さんに親身になって奮闘するイメージが浮かびました。

■建築をつくり続けたい

“続いて、最後の質問です。”

“建築家になった今、これからの夢を教えてください。”

「僕の今の夢か。。」

「自分が設計した建築を使う人に喜んでもらいたいから、一番はそこかな。」

「そういう意味で、建築をつくり続けたいってのがあるかな。」

「不特定多数の人が使える建築には、全然違った面白さがある。設計にね。」

公共の建築にもっと挑戦したいと語る。

特定の人に100%喜んでもらうための住宅設計と、不特定多数が使うことを想定する公共建築の設計では、それぞれ違った面白さがあるそうだ。

21世紀美術館がそうであったように、これから吉村さんがつくる公共建築も、色々な人に使われ、喜ばれ、愛されることでしょう。

吉村寿博建築設計事務所 〒921-8033 石川県金沢市寺町2-3-4 TEL: 090-9768-8310

![endif]--

Comments


bottom of page