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『美容と建築は似ている』

  • あんねん
  • 2016年5月26日
  • 読了時間: 14分

GIGI+design/塚田純さん                    

建築家と一緒に建物を建てるって実際どうなの?と疑問に思う方や施主さんがどういう思いを持って建築家にお願いしているのか、などなど疑問に思っている方に向けて、建物の発注側の施主さんから「建築」についてインタビューを行いました。

インタビューをお願いしたのは、2015年11月にリニューアルオープンしたヘアーサロン「GIGI+design」の店長の塚田純さん。実は、建物が完成する以前に塚田さんより計画段階のお話を聞いていたので、実際に完成した実物や設計を担当した建築家谷尻誠さんとの設計について気になっており、ヘアーサロンが忙しくなる成人式が終わった頃にお話を伺いに行きました。

Q、リニューアルオープンのきっかけがあったということで。

大額にあったお店が10年契約で取り壊すということで更新できない状態だったんです。 もともと、そこを出ないといけないということでやっていたので、大額の方もこっちの方に集めて集約しました。

GIGI+design 店長の塚田純さん

■ヘアーサロンにとらわれない+Designの意味

木の質感と中央のグリーンが空間にあたたかみを与えている(GIGIさん提供画像)

Q、もともとのGIGIに+Designとついているのはどうしてでしょうか?

みんなでミーティングを重ねていく中で、人口の増加はこれからもうないねと話していて、美容室っていうのはこれから別に髪の毛だけじゃなくて、他のこともプロデュースしていくのがいいんじゃないかって話していて。車や家くらいまで進めてしまってもいいんじゃないかって。 だから、僕らがいいなぁと思うもの、おすすめできるっていうものを増やしていきたいと思って、+Designにしています。

最初、+lifestyle(ライフスタイル)っていう案も一個あったんですよ。 でも、それだったら生活だけになるけど、+Designにしたら、例えば何かデザインされたものを手にとった人自身の心を美しくするっていう意味があるのがいいなと。

旧店舗をギャラリーに(GIGIさん提供画像)

それで、旧店舗をギャラリーにしました。 今、作家さんに貸したりとか、学生に貸したいと思っているんですけど。 作家のたまごっているじゃないですか。ギャラリー借りようと思うと高いんですよね。だから、安く、下の部屋を使ってもらったら嬉しい。 例えば、日本や世界に羽ばたく人もいるじゃないですか。そういう人に通過点として使って欲しいっていう気持ちが正直ありますね。 それにプラス、なにやってもいいんじゃない、って思ってる。フラットな場所として、たとえばマルシェしてもいいし、今後いろいろ企画をやってこうと。 子どもカットの勉強会とかも。今もうちょっとやっているんですけど。 それはこれまでは会場借りてやっているので、こっちにママさん呼んで、やってもいいんじゃないかって。 下はただの白い箱なんで、自由に使えます。

■建築家 谷尻誠さんとの出会い

僕らが主催の美容と建築との融合のセミナーをやったのがきっかけで谷尻さんと知り合ったんです。 21世紀美術館の地下のホールを使ってやったのと、CAAKでやったのと。 去年は美容だけだったんですけど、以前は誰かと誰かを絡めたのとか。美容と何かを絡めたりとか。 年に1回、2回とかやってたんですけど。 谷尻さんそこで異質だったんですけど、美容師さん半分に建築の方半分に、百何十人ほど来たんですが、結構評判よかったんです。

※CAAK…金沢在住の若手美術・建築関係者によって結成されたグループ。

 金沢市寺町の町家を拠点にイベント、レクチャーを行う。

■ヘアーサロンと建築は似ている?!

Q、その時はなぜ美容と建築をコラボさせようと?

美容と建築は、単純に似ている。美容師にも図面があって、土台の球体やでこぼこしたものに対して髪の構築をしていきます。出来上がってそれが全体のディティール(細部)に変わってくるんです。色彩、カラーリングとか。他にも、伝え方の面でも似ているし。

一番似ているのは構造だと思っているんですね。 そこはすごくしっかりスタッフにも伝えているつもりです。 最近って、結構フランクなヘアスタイルが多いと思うんですが。今年だったら外人みたいな、切りっぱなしが流行っていたりするんですけど、基本があって。それは揺るがないものなんですね。しっかりやっておくと、ちょっと遊んで崩したものとかできるわけです。 そこの部分が建築に似ていて。

僕自身もずっと建築の本を読むのが好きで、20代の頃からCONFORT(コンフォルト)を買っていたんです。 それ見ていいなぁっていうのを、これ次にヘアスタイルに活かせないかなぁって。 建物っていうのは、木であったり、石だったりとか、素材が決まっていて、組み合わせを無限に考えてどういう風にディティールをもっていくかと考えていくじゃないですか。 でも中はしっかりしていないといけないっていうのが好きで、今は昔ほど建築見なくなったんですが、当時は洗いざらい見ていました。 最近は、料理の本ばっかり見ている(笑)。

■建築家にヘアーサロンを頼むことになったきっかけ

何度か一緒に仕事して、裏方で動いていたんですが、その中で初めは谷尻さんに頼むつもりなかったんですよ。自分の家を設計してもらった人に頼もうかなぁと思っていて。 実は、家を4年前に建てて、その前に、お店建てて計5回作っているんですよ。 それは全部僕が決めたんですよ。模型も作って。あの白いやつを使って。

小池:スチレンボードですか?

そう、それ専用のノリも買ってきて、模型作って設計事務所に持って行って、こういう風にしてって言って。 建築雑誌見て調べて、材料もこのくらいかかるって言って、安くいいものを作ろうとして。 でも、今まで作ってきたものは似ているんですよね。 コンクリート、ステンレスと、合板と、モルタルに杉板はって、サンダーかけて杉板の木目を見せたり。 だから、また同じになるんじゃないかっていうのが嫌で。 谷尻さんと飲んでいて、「うちやってよ」って言ったら、いいすよ、と。

Q、建築家との設計はどう進めていきましたか。

谷尻さんに任せるときは、自分の考えは一切言わない、口出ししないと決めていました。 僕は今回自分の感情とか感性は入れなかったので。でも、家具と植栽は自分で選びましたね。

土の表面にクルミチップを敷き詰めている。 土台側面の一部が

外せるようになっており、土と水の点検が行える機能性も完備!

Q、塚田さんの方からこうしたいっていうのは?

ありますよ、「自然」。 このお店になる前にパース10回くらい、山ほどありました。

最初、ヘアーサロンに図書館あったらいいですよねって。やたら本置きたがっていた。なんでかなって思っていたんですけど。BOOK AND BED TOKYOでしたっけ。あれうちと同時進行だったんですよ。 ヘアーサロンと本もいいと思うんですけど、たぶん、お客さんが求めているのは、ここにいるときは本ではないので、それじゃなくてよかった。 (「BOOK AND BED TOKYO」http://bookandbedtokyo.com/)

貴重なボツ案。階段状の本棚に埋め尽くされた美容院。

(GIGI+design facebook ページ より)

これになる前はコンテナでした。 コンテナを組む案。調べたら日本の建築上は、コンテナを積み重ねたら、新規の新しいコンテナを買わないといけなくて高くつくんです。予算オーバーしたのでやめたんですが、かっこいいですよね。

一番すごかったのは店舗残して、4階建てにして、真ん中に柱つけるやつ。 それは即答でだめって言った(笑)。

模型も何個もあったし、最初の案はすごかった、全面ガラス張りでしたし(笑)。 絶対みんな焼けるしと思って。どうするんだろうって思って。 見積り一応出したら2億5千万。マンション建てれるし。それでもオーバーしますって(笑)。 ある意味、谷尻さんも自由にしていたし、契約切れるまでマメにしてくれたし。 こういう風になってよかったなって思いますしね。

小池:楽しそうですね。

そうですね、でも後半やばかったですね。 間に合うのかって(笑)。

■ださかっこいいのがいい?!

旧店舗の外壁。窓部分がカウンターになっている

これもまた、ださい感じがいいんです。これ旧店舗の外壁なんです。 ださいとかっこいいの間をいっていると思います。 谷尻さん、「レンガがださいのがいい」ってずっと言っていたんです。「・・・そう?」って言って(笑)。 昔の鉄骨の窓のむき出しで、旧店舗のままです。 実はこれは、自分が帰ってくる前にうちの両親と谷尻さんで話進めていて・・・(笑)。

荒木:ご両親と谷尻さんのコラボですね! それがよかった。 僕、たぶんモルタル打ちっ放しにしてるんで。それがよかった。 新しい設計部分と融合している。

■できるかできないかのギリギリで建物が立っている

Q、完成まではどのくらいの期間がかかっていますか?

3年。2年から3年まで完成にかかっています。 やっぱり谷尻さんすごいなって思ったのは、物の見方と考えがものすごく離れているのと、見る角度が違う。 あと、この人の素晴らしいところは、営業努力、仕事をとる力。あの人は建築もやるけど、たぶん営業能力が高い。建築じゃなくてビジネスマンのセミナーしたほうが、もっとよりパッといくかもしれないですね。 言っていることが柔らかいんですが、きついんですよ。絶対曲げないし。面白いなって思いますね。

あと、谷尻さんが広島でTHINKっていう毎回テーマが違うワークショップやってるんですが、いろんな人が来るんですよ。あれも人脈なんですよ。 売れてる理由ってたぶんそこだと思うんですよね。 つくるもの結構ふざけているんですよね(笑)。できるかできないかのぎりぎりで建物建っているんで。だから面白いものができるんだと。

Q、意見のぶつかりはありましたか?

ないっす、ないっす。 谷尻さんはいろんなことを見てくれているんで。例えば、僕の普段の服とか、会うたびに。 僕も谷尻さんのこと見ているんで、大丈夫だなと。センスじゃないですか。 谷尻さんとはSNSで繋がっていると、谷尻さんがオフ時に何見に行ったとか、タイムリーに来るじゃないですか。だから大丈夫じゃないかなぁって。 信頼度は高かったですね、谷尻さんに。

■それだと普通のヘアーサロンになっちゃうと何度も言われた

Q、実際建物が完成してどうでしたか?

お~いいじゃないって。

荒木:かっこいいですもんね。

外とのギャップがいいですよね。外の見た目と全然違うから。 最初は谷尻さんずっと言っていたのは、段差がある建物、三高層みたいな。階段いっぱいある。 「そそそ、それだけはやめて」って、「ばあちゃんあがれんかったら辛いし。フラットにして欲しい。」とは言ったかな。

谷尻さんお客さんのこと考えないし、シチュエーションとか考えない(笑)。 でも、「それだったら普通の家になっちゃう」っていうのが谷尻さんの口癖なんだよね、それを貫いてやっていってほしいですよね。

■柔らかい感性を持っていきたい

僕の家なんかぜんぜん違います、パキーンって感じです。前の店もそんな感じで、もう何にもない。 でもやっぱりこういうの見たりすれば、自分の感性も上がるし、自分の家を次何年かして直そうと思った時、シナベニヤいいよね、とか思っちゃうし、それはやっぱり経験だと思う。 

最近は、なんでも自分で決めないようにしてる。 感性がもうそれ以上成長しないと思うんですよね。僕ももう43なんですけど、やっぱり年取ると固まってくるよね。固まらないようにしてるんですけど。   いろんなもの見て、いろんな人と出会った時に柔軟性が失われるとやっぱりだめなんで、店のことや中身は店の子たちが全部決めてやってます。そうすると自立性がみんなに生まれるし。

■イメージと実際の出来上がり

Q、イメージしていたものと実際建ったものを見て違うなってところはありましたか?

あんまないかもしれない、初めてではないし、やっぱり。 初めての頃ってやっぱりありましたよね。一番最初にやったときはこの店自分でなおしたんですよ。一番最初から自分でやって。

荒木:施工というか、作業も全部ご自分で?

そうそう、クロスはったり。26,7ぐらいの時だったんで全部自分でやりました。 クロスは貼れたんですよ。幼馴染がやってて、よく手伝ってって言われて手伝ってて。その代わり、やってる途中はビール飲み放題ってルール。ふたりでお酒飲みながらしていて、いつまでって言ったら、明日の朝だって言って、じゃあ焼肉ねって言う感じでやっていたらうまくなっていって(笑)。

フローリング打ち込んで、漆喰塗って、照明、天井のクロス張り替えて、照明全部代えて、子ども部屋は壁一面天井までクライミングのやつつけたり。 あとは、部屋の窓を全部塞いで、防音のやつつけて、80インチのシアタールーム作ったり。最高でしたよ。トイレしに階段降りていこうと思ったら、映画の音がなりっぱなしの感じが、映画館出た時のうっすら聞こえる本物の映画館みたいで。

荒木:すごいですね。

■馴染みの施工会社

Q、建物は木造なんですか?

木造なんですよ、実は。

荒木:最初、鉄骨かなと思って中に入ったらこんな感じだったので。

そうでしょ、木造なんだよね。これなんて名前だったかな、これ変わった造りなんですよ。 僕も初めて聞いたやつで、こんなんあるんだって、これでいきたいですって。 大工さんもすごく困ってた。わかんないって四苦八苦しながら。

施工会社の方にも、最終的に僕が好みでお願いしたんですけど、たまたま僕の家をやってくれたとこと同じところで、それはすごいよかったですね。 石川県内の設計士さんはしょっちゅう来てやってくれるんですけど、谷尻さんとかは県外から呼ぶってのは難しいから。 馴染みの施工会社だとやりやすいですよね。終わってからも結構言えるんで。結構無理難問言いました。土壇場で、もうちょっとこうしてほしいとか。大幅にデザイン変える程ではなかったけど、やってもらったことはいっぱいあります。

Q、 お客さんの反応はどうでしたか?

お客さんの反応いいですよ、あったかいって。前の店はすごい冷たかったって(笑)。ズキっとしながら・・・。前のお店はニューヨークっぽくてクールな感じだったから。 やっぱり木の匂いが嫌いな人っていないし。落ち着き、癒される~って言ってくれるので、それが良かったかなと思いますよね。

■塚田さんから見る建築家 谷尻誠さん

Q、この建築の一押しポイントを教えてください。

ええ、ないっすよ。

荒木:全部最高ですか?

そうですね、頼んで良かったと本当に思っています。

荒木:谷尻さんと仕事して楽しかったですか?

楽しい、というよりは学んだことが多かったですね、うまいよね、谷尻さん。 広島の事務所に僕1回行ってきたんだけど、所員さん含め、一緒にご飯食べたりもして。 みんな若くて元気がいい。面白いですよね、エネルギーありますよね。

谷尻さんは本当に洋服すごく好きだと思うんですよ、ファッションに関したらすごい好きなんだろなぁって思うし、そんな話結構しました。 美容師って、自分のお客さんが来るじゃないですか、僕のお客さんっていうのは僕にテイストに似た人が来る。年齢幅広くても、みんなそういうテイストの人が来る、そういうもんだと思うので。 谷尻さん絶対いろいろな所を見てると思うんですよね、旧前店舗もみてるし、僕の家も見に来てくれてるし。 何が好きなのかっていうのを理解してる。 僕もお客さんにやることは一緒なので、そういう意味でも似てるなと思うんですよ。 だってほらクライアントさん願いを叶えなかったら、怒っちゃうじゃないですか。 でも思ったとおり出来たっていったら喜ぶのってヘアスタイルも一緒なんで。

■好きなものに囲まれて

形ないものを僕らも売ってるんで、建築はそういうところでも似てると思いますね。 例えば、洋服なら選べるじゃないですか、デザインも色も。でもそれって出来上がっているけど、僕らの仕事って出来上がってないものを売らなきゃいけないんで、それって建築もそうじゃないですか。

お客様だったら、こんな風になりたいんです。わたしこんな家建てたいんですって絶対に持ってくるじゃないですか。 形あるもの、形ないものの違いはすごく似てるんだと思うんですよ。 だから美容師ってすごいんですよ、めっちゃすごいんですよ。ただ、一個いえるのは、例えば、しまった、って思っても2、3ヵ月後にはもう1回リセットできる(笑)。 でも建築はそうはいかないから・・・。

ヘアスタイルはヅラじゃないんで、ずっと24時間、365日付き合わなくちゃいけないんで、家と似ているんですよね。賃貸だったら変えられるけど、建てちゃったら変えられないんで、どう自分が普段好きなものに囲まれるか。 谷尻さんも「好きなものに囲まれて」っていう言葉をよく使っていて。 好きなものとか、いいと思うものっていうのが周りに置けるか、置けないかっていうのが、仕事うんぬんを左右する根本かもしれないですね。

インタビューが終わった後、塚田さんによる店内紹介をしていただきました。

レジ裏の収納棚。収納やスタッフの効率には気を遣ったという。 塚田さんのポイントはこの穴。

指をひっかけて開ける。なんでもデザイン任せにはしない。゙機能面のバランスをとることも重要。

他の場所との行き来のしやすさ。タオルを取り換えるタイミングとタオル入れの位置。小道具の収納には気をつかったという。それで出来上がったのがこの髪洗い場。機能と効率に加え「普通の美容室は流しが壁にくっついてるでしょ。うち、女性のお客さんも多いから。スカートだと足を壁際に向かせた方が安心するでしょ。」と。なるほど。

実際に何度も家とヘアーサロンの設計に携わっていた塚田さん。 その経験があってこそ、美容と建築に共通する構造とディテールのお話のように、基礎がわかっていると細部に渡ったこだわりや建築家に自由に任せてみようとする思いが生まれるのかもしれません。

ヘアーサロンにとどまらないGIGI+designさん、これからも要チェックです!

GIGI+design

住所:石川県金沢市窪7-268

TEL:076-243-7636 定休日:毎週月曜日、第一火曜日、第三日曜日 web:https://gigi1201.amebaownd.com/

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